大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

尼崎簡易裁判所 昭和38年(サ)530号 判決

申立人 篠部吉夫

右代理人弁護士 段林作太郎

被申立人 南本歌松

右代理人弁護士 日下基

主文

当裁判所が昭和三十八年(ト)第三五号債権仮処分申請事件につき昭和三十八年六月八日にした仮処分は申立人において保証として金五十三万円を立てることを条件として、取消す。

申立費用は被申立人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被申立人が申立人主張のような仮処分決定を受け申立人主張のとおり効力を生じたこと、その申請の理由は申立人主張のとおりであること、右申請理由の土地は申立人主張のとおり兵庫県収用委員会の裁決が確定し、その土地の昭和三十八年七月十日の損害補償として金三、一〇八、二一五円が申立人に交付されることに確定し、被申立人において申請理由の訴訟に勝訴するもその所有権を回復することはできず、その損害は、金銭で償われることは当事者間争いない。

被申立人代理人は、仮処分申請理由の本件土地の権利者の地位は当事者の何れにあるかが問題であり、その地位は金銭的に評価できないというけれども、被申立人において勝訴を前提とすれば被申立人がその地位にあることは明である。その地位にあつても本件土地の所有権を回復できないこと、回復できない結果生ずる損害は金銭によつて償われることは、被申立人の認めるところであるから被申立人が勝訴した場合その地位に基く損害は金銭により補償されるといわなければならない。

右の場合の損害補償の額について考えて見るのに、申立人は本件土地につき昭和三十三年二月二十五日の売買を原因として同年三月二十二日受付第四五一号により申立人名義に所有権移転登記をしたが、その登記は被申立人の意思に基かない申立人の不法行為による無効の登記であるからその抹消登記手続を求めて本訴を提起し審理中なることは当事者間争いないのであるから、被申立人が勝訴しても、第三者の行為によりこれを回復できないときその損害は、前記申立人の不法行為により無効の登記をした日(昭和三十三年三月二十二日)及びその当時において確実に予見し又は予見し得べき事情に基く本件土地の価格であると解する。そうして被申立人は右本訴に勝訴しても本件土地はその所有権を回復することができないことは当事者間争いないところであるからその損害は右時点における本件土地の価格により補償されるものと認める。鑑定人佐藤四郎の鑑定の結果によれば右価格は金五十三万円であることが認められ、被申立人は右訴訟に勝訴した場合その損害は、右金額で償はれ民事訴訟法七五九条の「特別事情」があるものと認める。

被申立人は申立人において昭和三十六年十一月十四日本件土地の残代金として金二〇八、〇〇〇円を被申立人に対し弁済供託しているので、本件において取消のため保証を立てさせることは本件土地代金を二重に支払うことになるというけれども、仮りにそうであるとしても申立人において敢て本件取消の判決を求めているのであるからこれを顧慮する必要はない。被申立人勝訴の場合の損害は以上のとおり金五十三万円で、補償され日本道路公団が申立人に交付すべき三一〇八、二一五円(昭和三十八年七月十日における本件土地の補償額で当事者間争いない)とすることはできない。

右のごとく被申立人が損害を受けたとしても金五十三万円で補償されるからその金額を保証として立てしめこれを条件として本件仮処分を取消し、申立費用の負担については民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古南為一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例